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英語小径:oft・e・nの歴史
2025年01月17日
O thou who hast strayed upon this path! Thou shalt not return to thy life’s course unless thou readest all herein.
Greetings!
英語の授業で生徒に英文を音読してもらうと、生徒によってoftenを/ˈɒf.ən/(オふン)と発音する生徒もいれば、/ˈɒf.tən/(オふトゥン)と発音する生徒もいることに気づきます。この発音の違いは住んでいた地域差によるものなのか何なのか、調べてみるとoftenという単語の歴史が関係していることが分かってきました。
まずoftenの元である古英語のoftは/t/を明確に発音していました。【*このoftは英詩を読むと時々登場する単語なので、広尾学園の帰国生入試対策をしている生徒は見たことがあるかもしれませんし、私が以前入試対策として扱ったウィリアム・ワーズワースの詩「水仙(I Wandered Lonely as a Cloud)」の最終連にも登場していました。】
For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.
このoftは中英語(およそ11世紀から15世紀)の時代にofteというスペリングを少し経てoftenというスペリングに変わりました。ofteという綴りは見たこともないという方が多いと思います。現代英語では用いられませんが、中英語文学を代表する詩人ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』の「騎士の物語」(The Knight’s Tale)のなかで用いられています:
“Ful ofte tyme he wente ther to preye”(Very often he went there to pray)
/fʊl ˈɔftə ˈtiːmə hiː ˈwɛntɛ ˈθɛːr tə ˈprɛiə/
ラテン語やフランス語の影響があり、単語を音韻的により明確にするため綴りが追加されたことによりスペリングがoftenに変容を遂げたようです。当初は/t/が発音されていましたが、16世紀頃にかけて英語における音の脱落(consonant elision)が進み、/t/が徐々に発音されなくなったようです。(oftenの場合は/f/と/n/に挟まれて発音しづらかったため。)
そして近世英語(16世紀以降)では/t/を発音しない形が主流になりました。(地域差や階級差もあるので一概には言えず、一部の保守層には/t/を保持する傾向も残っていたようですが・・・)
いずれにしましても、順番としてはoftenの/t/は発音されていたが、時代の流れで省略した発音の方が広まっていったというのが真相のようです。
主流派と異なり、古き(良き?)/t/を発音に加えるかどうかは、現代においては一個人の選好次第かもしれませんね。
文責:片野
補足「William Wordsworth(1770~1850)はなぜ時代が違うのに古英語のoftを詩の中で用いていたのか?」と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、複数の要因が考えられます。①韻律を整えるため ②詩的伝統との関連(ロマン派の詩人は過去への憧れが強く、意図的に古語を用いることで詩に古風な趣を加えることがあった)③文学的効果(日常語のoftenを用いるより、詩的な響きを持たせ、詩の内容に永続的かつ普遍的な性質を付与するため)